Encyclopedia of Dominiaより: この文章は独自に翻訳したものであり、公式なものではありません。また、稚拙な訳ではありますが、お楽しみ頂ければ幸いです。(by JFK@あんかば) ドミニア百科辞典−大使の旅行記(The Ambassador's Journal)  以下の物語は、ラノワールの森に住む、あるシャノーディンのドライアドによって書かれたものである。  ラノワールとシャノーディンの住人は、互いの住居である森林が(数千マイルにも及ぶ)恐ろしいほどの距離を隔てているにも関わらず、深い尊敬、そして関係を共有している。  ドライアドの1人サイシア(Sythia)は、ほとんどの文化がそうであるように、紙の上にはこの物語を遺さなかったのである。そのかわりに、彼女は、自らの拠り所である木に、それを歌い残したのだ。  ドライアドと彼女が宿る木の間での意志疎通は、生きている木の中にドライアドの思考が刻み込まれるように宿るほど、強い。--それらを読む方法を知っている人たちにとっては、そう感じられるのだという。  ――テイジーア  私は、ラノワールの心休まる木陰で、いくつかのクロッカスを育てながら生活していました。  私は、隔離された平和の地、ヘドレッセル(Hedressel)の中からめったに外に出ることはありませんでした。  ドルイドたちは、私の存在によって威圧されているようです。私が眠るときや瞑想したりするために木に入るときにはいつも、目の前で若い人が卒倒するのではと心配です。この反応は、森とドライアドとのつながりの羨望から来るものなのでしょうか? おそらくは違うでしょうけれど。  ここラノワールのエルフ達は、彼らが自分達を呼称するものとして、彼ら自身を部族、あるいはエルフェイム(elfhames)に分けています。それぞれのエルフェイムは、明確に分かたれた民族、領地、指導者、および社会構造を持っています。そして、ほとんどのエルフェイムがお互いうまく折り合っているにもかかわらず、彼らの間で時折、闘争が起きたりもするのです。  これまでにも、エルフェイムは、そういった強い敵害心があるけれども、今の森林の平穏を損なわない程度に闘争を繰り返してきました。  2、3ヵ月前、私はドルイドたちに、壮麗なるラノワールのより多くを見聞することはできないかどうか聞いてみました。  エルフェイムの構造は、私の興味をそそりました。私が森に来てから、安静なるヘドレッセルの神聖な場以外をまったく見たことはありませんでした。  "鋼の葉"の騎士団の幹部が付き添うことをお許し下さるなら、という条件を提案し、ドルイドらは直ちに同意しました。  なぜ軍人が私に付き添って行くのだろうと尋ねると、最古老ドルイドである、セドリアン(Cedrian)は答えました。  「このようなエスコートが、何よりもまず第一の敬意の証なのです」  しかも、最近は鉄の爪の山からのオークたちが、時折森を襲撃するという危険な状態でもあったので、1ダースにも及ぶ"鋼の葉"のエルフ騎士達によって付き添われ、ロリダール(Loridalh)のエルフェイムを見るために、思いきって旅に出たのです。  (2週間近く続いた)私たちの旅の行程の間に、私は、ギリアン(Girian)と、彼の部下である"鋼の葉"の騎士たちに多くのことを学びました。  眼帯、入れ墨、そして輝やかしく色をつけられた髪をした若いエルフ(その印象で彼をいつでも思い出すことができます)、度を過ぎているほどの熱烈な信念というのは、若者の最もすばらしい資産であるけれど、一番の欠点でもあります。  「はるか昔、我らの女神フレイアリーズがわれわれ"鋼の葉"に下された、森とエルフを守るという義務を、我々は放棄したことはありません」  実際、彼らは、フレイアリーズの意思に沿わない行動をしている他のエルフ達を罰することさえできるほど、この騎士団はその言葉に忠実でした。  また、ギリアンや他の騎士たちは、私に対しても、礼儀の魂そのもののようでした。  私たちがロリダールに到着した時、私は、長い旅行から家に帰って来た母親を見た子供を思い起こしました。 あたかも、残酷な別離が決してふたたび起こることがないように、ずっと母親にいてほしいというように、母のスカートにすがりつく子供を。  それと同じように、エルフは、彼らの無限とも言える生を与えるものである、母なる自然への関係を増やすために常に努力しているようにも見えるのです。  ロリダールの建物は私が他のところで見たことのあるどれとも異なっていました。   建物は生きている木から作られ、数え切れない年月にわたり、その存在の中にうまくとけ込んでいました(エルフたちは、魔法によってその過程を早めたことは認めましたが)。 ロリダールは、選ばれた木の傍に、慎重に組みたてられた骨組みで、部屋と建物の物理的な間取りをしていました。  木の材は、常に成長しつづける家屋として作られ、森の高みに上手に届くようにその形が流れるのを促進されます。私はこの配置が美しく、そして大いにエルフたちの心情を示唆していることがわかりました。  彼らがこのような羨望と畏怖の念で、木の中に生きる私の能力を見ていることは、不思議ではないでしょう。  この間中、"鋼の葉"の方々の忍耐力はすり減らされたようにも感じました。  ロリダールや年長の者と建築哲学について論じているあいだ、エスコートたちが緊張したおももちであることに私は気付きました。  旅の間、私が眠ったと思った隊員のいく人かが、大使の付き添いのような栄光もない任務につくことについて、不平を言っているのを耳にしていました。 ああ、若さというものは本当に!  私が、ホストを少しながら深く理解できたと信じられるものを見たのは、ちょうど私たちが街を去る準備ができたときでした。  若い母親が、子供を腕に優しく抱いてあやしながら、私の訪問を観察している小さな群衆の端を歩き回っていました。  その目に涙を浮かべて私を見ているのをちらっと見かけたので、私は彼女のほうへ進みました。  ギリアンは前に出て、私に正午をまわっており、そして我々がまもなく家に向かって出発しようと考えていることを言い聞かせました。  私は安心させるようにギリアンの腕を軽くたたいて、そして若い母親(私はどうしても、彼女の名前を思い出せませんでした)に近寄りました。  なぜあなたは泣いていたの?と尋ねると、彼女は、ローニア(Llonya)、古代エルフ語で「ドライアド」を意味する名が子供につけられたことが、貴方様の訪問があるというフレイアリーズからの啓示であるということが確信できたのですと答えが返ってきました。  女神から送られた啓示なら、確かにその子は神聖であるに違いありません。  厳粛にエルフの子供をじっと見下ろし、少女の壊れそうな手が私に向かって、そうでなければ空でも掴もうかと伸ばされているのを見ていました。編み束ねられた手慰みのオモチャをしっかりと、握りしめた手を。  腕の中に子供を受けとって、そして木漏れ日の光に向かって彼女を差し上げました。その子はこらえかねて身をよじりました。  私は、鎧の上にいかめしく腕を組んで立っているギリアンをちらっと見てから、街で最も大きい木にその子を紹介しました。  その子供は、生の枝を手繰り寄せて、彼女のもう片方の手を私の髪にもつれさせながら、口の中に最も小さな、葉が多い小枝を引っ張りました。  その時、小さなローニアは泣き始めました。  彼女の母親は慌てて、娘の行動を謝って彼女を受け取りました。  ラノワールはこの子供のようだ、と私は思いました。彼らは自身を古代の賢人や戦士だと見なしていても彼らは本当にまだ、自分の家を去る願望とずっと母親の腕のなかに留まる願望との間に、心を乱す子供なのだと。  私が決して護衛たちと共有することができなかったこの洞察で、私はひとり微笑して、ほっとしたような顔のギリアンにうなずきかけました。  家に帰る時間でした。