この文章はThe Duelist#5に掲載されていたものを独自に翻訳したものであり、 翻訳許可をとっていません。 この文書の取り扱いは十分にご注意下さい。 また、訳の間違いもある可能性があります。それらをふまえてお楽しみ下さい。(訳者) 翻訳には鴨屋 真)さん、米村*ぱお*薫さん 小澤 Crouton 索郎さんにご協力を頂きました。 Feast of Kjeld by John Tynes キイェルドの祝祭 -アイスエイジ異聞- by ジョン・タイネス  今宵はキイェルド(Kjeld)の祝祭、建国記念の夜であった。が、ミッケル(Mikkel) の中には、これを祝う者は誰一人としてなかった。  吹雪は三日前から激しさを増し、クロヴ(Krov)への路は通れなくなっていた。  平和な日々であったなら、村人たちは、大きな祭りに参加するために着飾って、 供え物を持って、いっぱいの荷物を持って首都へ向かっていただろう。 祭りは、氷によって鍛えられたキイェルド王家をたたえるものであった。  けれども、近年は幸せな日々ではなかった。  死者の大群との戦争はかんばしくなかった。  10年前、ネクロマンサー・リム=ドゥール(Lim-Dul)は、ただ、遠方の、隔たった 邪悪なものとして噂されていただけだった。  その頃から、山を越えていく旅行者が姿を消し始めた。  戻ってきた者は、想像をはるかに超える存在によって襲われたこと、そして自分の 仲間に起こった、殺されるよりももっと恐ろしい運命について語った。  遠征隊が送られ、そして彼らは、行軍する死体と、広大な氷結沼の端に建築されている 城砦の情報を持って帰って来たのである。  最終的にリム=ドゥールの軍隊が山を越えるまで、キイェルドの国境に沿っての 攻撃は増え続けた。  恐ろしい魔法と、悪魔的な激怒によって操られたこのアンデッドの兵士たちは、 睡眠も、食料も、快適さも、暖を取ることも必要なかった。  迅速に、無言で、そしてまったく慈悲を欠いたこの軍隊は、村々を襲い、全ての男、 そして女性と子供ですら剣を取ったものの、全ての家は焼き払われたのであった。  最も悪いのは、虐殺によってその軍隊は成長することだった。  次の朝日が昇るころには、キイェルドー(Kjeldor)国内の罪もない人々は殺され、 命を持たぬ炎で埋め尽くされ、そして、リム=ドゥールの非道な軍隊の一員となって いるのだった。  今宵はキイェルドの祝祭の日であった。しかし、誰一人として、再びその日が来るのを 生きて見ることができるのかわからなかった。 - 1 -  ぬくもりは命なり…  癒しは平和なり…  力は守護…  そはキイェルドの心なり…  キイェルドは全て  全ては一つ  昇る月  沈む陽  太陽は真実なり…  水は絶え間なく…  氷は力…  そはキイェルドの心なり…  キイェルドは全て  全ては一つ  昇る月  沈む陽  村の教会で、司祭はキイェルドの祝福を朗々と読み上げていた。  聖句は純粋な力と真の信念の熱情をもたらす。しかし、ハルヴォア・アレンスン (Halvor Arenson)の顔は彼の説教とは矛盾したものであった。彼は年経ているわけでは なかったが、その姿はそう見せていた。  冬の厳しい嵐と戦争の恐怖は、彼の血色を悪く、そしてやせ衰えさせていた。 髪は薄くなり、ほおはこけていた。  キイェルドの輝かしい歴史を描写している荘厳なタペストリーの前に、彼は ひざまずくように、激しくスタッフにより掛かった。  ミッケル村の人々のように、大きな宴のためにクロヴに行くことができないことが、 彼には悲しかった。  今はキイェルドーの過去をたたえ、そしてその未来への人々の信頼を増す時であるのに。 「ああ…」彼は祝福の言葉を終え、考えた。 「それでも、私たちは、自分のために祝祭を行なうことはできるのだ」  彼の横にひざまずいた子供以外、教会に人けはなかった。  彼は、火で暖をとりながら集まって協議している、残りの村人について考えた。  ハルヴォア司祭は、ただでさえ寂しい教会に、このような嵐のさなかに彼らが ここに来ることなどないと良く知っていた。  それでも、村人らの欠席は彼を傷つけていた。 「ハルヴォア、皆どこにいるの?」と少女が尋ねた。「なぜみんなはここに  集まらないの?」  司祭はため息をついた。 「みな自分の家だと、私は思いますよ。嵐から身を潜め、歩きまわる死の恐怖から 身を潜めているんでしょう。  でもねケイサ(Kaysa)、少なくとも私たちが、ここにいないみんなのために、この 祝福を捧げることができることは、キイェルドは理解していらっしゃるよ。」  ケイサは答えず、深く考え込むかのようにタペストリーをじっと見上げた。 彼女の手には春の名残りといえる、西洋ヒイラギの鋭いとげのある大枝があった。  突然、大きなドシンという音がして、教会の両開きの扉が勢いよく開いた。 吹雪の咆哮は百倍にもなり、雪も舞いこんだ。  入り口には三人の人物が立っていた。そのうち二人は自らの戒律のバッジで留めた、 暖かい羊毛と重い鎧かぶとを着ている騎士であった。三人目は鎧は身につけては いなかったが、オーロック(auroch)の毛皮をしっかり着込んでいた。  その三人は中に急いで入り、扉を閉じた。 「ごきげんよう、司祭様」と騎士の一人が口を開いた。  彼女は、自分のヘルメットを脱ぎ、厳しいけれども、人好きのする顔を見せた。 「我々は凍えて、疲れ果てた旅の者です。  おじゃましてもよろしいですか?」 (中編に続く)